コチコチに鬱憤の貯まりこんでいたモミアゲから解放されて、オレは夏の終わりに想いを馳せた。


 甲子園の県対抗大会で優勝して。いろんなことがごっちゃになってそれなりにわやくちゃだったが、最後に残ったのは実にシンプルな感情だった。
 埼玉に帰ってきたその日にオレは沢松の家に上がりこんで、おいおい泣いた。
 何で泣いたかっつうと、地元に帰ってきてほっとしたとたん、いろんなことにびっくりしたからだ。
 ガキが何かにビビって、何もわけわかんないのに泣き喚いてるのと同じみたいに。野球を始めてから得た出会いにいちいちびっくりして、勝っちまったことにびっくりして、すげー嬉しくてはちきれそうになって、凪さんがものすごく美しく微笑んだのにびっくりして、ああ、とにかく何もかもに驚いていた。
 誰もやめろなんて言ってないのに、急に野球やめたくないとか思って、もしもやめたら死んじまうとか喚きながら泣いた。

 いきなりやって来てわあわあ泣き出したオレに沢松はビビるかと思ったらいきなり優しくて、野球部がお前の居場所になったんだからやめたくなくて当然なんだと繰り返し教えてくれた。

 クソ気持ち悪い夜だった。

 オレはその後沢松の部屋の窓を開け放ち、チキショウ愛してると叫んだ。喚いた。
 野球部64人全員の名前を叫んで全員に愛してるとがなった。
 沢松と梅さんのことも愛してるって叫んだ。
 一緒に戦った埼玉のみんなのことも、さすがに全員じゃなかったけど。あと、剣菱さんも、それから黄泉も。

 ほんと気持ち悪い夜だった。


 気持ち悪さ倍増なことに、オレはあの時の自分が、夜空と沢松と気の毒なご近所の皆さんに無理矢理聞かせたセリフにウソはないと、思っている。非常に残念で気持ち悪いことに。
 つまりオレは、あのコゲ犬のことでさえ愛しているのだ。



 そんなだからオレは、たっつんの嘆きを聞いて、愛するコゲ犬のために一肌脱ごうと思った。
 だって、オレでさえこんなに愛しているコゲ犬が、この先ずっとまともに友だちを作れないのかもしれないと言うのはかわいそうだ。
 大丈夫。友だちくらい作れるって。
 と、オレがヤツのダチになってわからせてやろうではないか。妙案だろう。
 こんだけウマの合わない、そうともケンエンのナカなオレとでも友情やれると思い知れば、友情つうものの垣根が低くなるに違いない。
 ダチになったら、うんと、いっぱい、いい思いをさせてやろう。ダチっていいもんだな、と思ってくれるように。

 それぐらいには、確かにオレは、あいつを好きだ。



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「オープンセサミ」  2006/06/27
友情から始まる犬猿。こんな話です。
お節介だろうがかまうか。オレが好きでやってんだ。あいつを好きでやるってんだ。
ものすごく昔からあっためていた話ですが、原作が終了してからのアップになって本当によかったと、書いてみて思っています。