あの頃、ボクは、まだSPY反応が出たばっかりの子供でした。学校の診断でSPY値が高いってのは言われてたんっすけど、能力が発動できたのは、ずいぶん後になってからだったんすよね。はい、そうです。ボクは中学校までは普通のスクールに通ってたくらいだったんっす。当時は勉強なんてぜんぜん興味なくて、部活動ばっかりに忙しくしてたりして。
 朝早くに起き出して、スクールに行って、部活動にいそしんで、それからまた家に帰って。そんなんばっかりの単純な生活だったけど、毎日とっても楽しかったっすよ。友達もなんだか面白い人ばっかりで。ボクが所属してた部活ってのはスポーツ系のだったんっすけど、結構皆、他にもいろんな趣味を持ってたりして。ボク自身はっていうと、そのスポーツに熱中する以外には何にもやってなかったんっすけどね。でも、そういう日々って、案外長く続かないんっす。そこにいるあいだは永遠にその季節が続くんじゃないかって思うのにね。
 そんな、ある時のことだったんす。
 ある時、ボク、肩にちょっとしたケガをしちゃったんすよ。
 別に難しい事故とかじゃなくって、どうも、成長期のせいだったみたいなんっすよね。ほら、あの時期って、まだ、骨とか筋とかが固まらないから。無理してると簡単に故障しちゃうんすよね。しかもボク、けっこうやりだしたら熱中しちゃう方だったんで。ちょっとした無理とちょっとした事故が重なって。ボク、一月くらい、マトモに部活に参加しないようにってお医者様に言われちゃったんっすよ。
 あの時は、けっこう真剣に落ち込みました。いい時期だったってのもあったっすからね。そしたら、部活の友達が同情してくれて。その一人が、差し入れとして、ボクに、一台のラジオをくれたんっすよ。白鳥座製の棘星を使った、単純な作りの鉱星ラジオだったんっすけど。
 はい。ほんとに、ただのオモチャみたいな、ちゃちな作りのラジオでした。でも、ボクには、それがけっこう本気でありがたかった。一人で部活をみてても落ち込むだけだし、家に帰ったときとかに、気晴らしでも良いから、熱中できるようなものがほしかったんっすよ。
 鉱星ラジオってのは、いっちゃえば、一種のアクセラレーターなんっすよね。アンテナの代わりに星石を掲げて、電波の代わりに時空の波を拾って、音にしてくれる機械。普通に聞いてるとノイズみたいなモンしか聞こえないんっすけど、シンプルキャスターの人が発信してるローカルの番組が聞けたり、また、宙で船同士が交し合ってる通信のカケラが不思議な具合に聞こえたりすることもあったりして。調整とかに時間がかかるけど、その分、いじりがいがあって面白い感じの機械でした。
 初めのころは、ボクも、普通にそういった波を拾うだけでした。鉱星ラジオから聞こえてくるノイズってね、それだけで優しくて、聞いてると眠くなっちゃったりもして。気持ちを落ち着かせるにはぴったりだったから、初めのころは、それだけで満足できてたんっす。
 でも、やっぱり、そのうちソレだけじゃイヤだなあって。飽きてきちゃったんっすよ。だから、その友達に相談してみたら、ラジオを自分で改造してみたらどうかって言われたんっすよ。
 ボクが生まれたクラリティ市って、殖民星としては、わりかし時代のあるところだったっすからね。旧市街には毎週ガラクタ市が立ってて、いろんな鉱石や、機械のカケラなんかを売ってたりしてたんっす。だから、ボク、そこに改造用のパーツかなんかが無いかなって思って探しに行って。
 星石ってのは波長の調整に使うもので、だから、意外と変なパーツをつかっても、反応っぽい反応を得ることはできるんっすよ。だからボク、パーツっていうよりは、てきとうにきれいなものは無いかなって探してて。そこで見つけたのが、この、棘星(いらぼし)だったんっす。
 見ますか? ……きれいでしょう。でも、気をつけないとダメっすよ。これ、すごい棘が鋭いんっす。不用意に触ったら手に光が刺さっちゃうくらいなんっすから。
 一緒に来てた友達も、棘星のことは知りませんでした。どうも、どこかの大学かどっかの物置から出してきた鉱石標本をバラして売ってたらしい。お店の人も、この棘星の正体についてはよく知らなかったらしいんっすよ。でも、ボクはかえってそんなことが気に入って。その棘星を持って帰って、ラジオのパーツに使う事に決めたんです。
 家に帰って、友達に手伝ってもらって、内部のパーツを入れ替えて。そうしてスイッチを入れてみたんっすけど、ラジオはうんともすんとも言わなかった。―――失敗だったのかなあ、って友達が首をかしげてました。
 基本的には石炭だろうが石けんだろうが何かの音はするはずの機械だったんっすけどね。あちこち調整して見たけど結局だめで。その日はずいぶん時間が遅くなっちゃったから、ラジオはそのままにして帰る事になっちゃいました。

 その、夜のことだったんです。