女の子は、おひめさまだ、と思う。
男の子のおとぎの国に住んでいる女の子は、かわいくて、ふわふわして、やわらかい。 時々しらないふりをするけれど、男の子の気持ちを本当は良く知っていて、やさしくしてくれる。 そしてしじゅう男の子をはらはらさせたり、どきどきさせたり、わくわくさせる、きれいなおひめさまだ。 そんなのただの都合のいい願望だよ、なんて思い知ったのは小学生のころだけど。 今でも心のどこかで、女の子にそんな夢を見ているという自覚はある。 だって男だからしょうがない。 彼女を見たとき、あ、おひめさまだ、と思った。 やわらかいかはわからないけど、かわいくて、ふわふわしていた。 女の子が気になって、そして不思議で不思議でしょうがなかった頃の気持ちを思い出した。 ふわふわ、ひらひら、きれいな水色の髪の毛。 どこか近寄りがたい雰囲気の腕のなかのぬいぐるみ。 頼りなげな瞳の、ちいさな女の子。 まるでお人形のように、かわいらしい女の子。 かわいいな、と思った。 気づけばずっと見ていた。 見ていたことに気づいたら、いろんなことを考えた。 いろんなおとぎ話を、考えた。 普通の高校生の、彼女と、自分。 やさしいマネージャーの彼女と、野球部のスーパースターな自分。 かわいい浴衣を着た彼女と、射的の完璧な自分。 あと、ちょっとエッチな彼女と、大人な自分。 おひめさまと、優秀な魔法使いの、自分。 おとぎ話の中は自由で広くてなんでもありだった。 いつだって気持ちよかった。 いつだって彼女はかわいくて、 いつだって、自分はかっこうよく、 彼女をやさしく護ってあげていた。 そんなのただの都合のいい願望だよ、なんて思い知るのは毎日のことで。 彼女とはろくに会話さえない。 名前で呼んでもらったこともない。 いつだって彼女は、大勢の他の女の子の後ろ。 片思いはつらいなあ。 切々と感じた。 片恋はつらい。 だから、ある日怪我をして彼女に手当てされることになった時は、ものすごくうろたえた。 低くなった太陽の中にボールが入って、一瞬目がくらんで。 ばっちり顔面にボールをくらって。 いくらなんでもこれは格好悪いだろうって。 こんな近づき方、ないだろうって。 額に伸ばされた小さな手を思わず振り払ってしまって、しまったと思った。 彼女を傷つけたかと焦った。 悲しむかと、思った。 彼女は微笑んでいた。 「猫神様より、少年についての定理を承りました」 はい? 「少年というものは愛されても愛されても愛されても愛され足りないニャ」 へい? 「私は愛してる、けど皆気づいてないかも」 あい? 「私たちみんなで愛してるのに、男の子たちは誰も意識しないの」 「愛された分のお返しだってしてくれてるのに、それさえ」 「だから、ますます愛しいかも」 あの、 「まぶしいかも」 内気に微笑む唇を、いつもはお人形のようだと思っていたのに、ひどく艶やかに夕日に映えていて、慌てた。 「今のお話は、皆には内緒ニャ」 細い腕の中でゆらされて、猫神様の黒い瞳がキラキラ光っていた。 「貴方にだから、話したニャー」 小さな囁きと、マキロンを残して、水色の髪が視界から消えた。 顔が熱い。 夕日が当たって、熱い。 立ち尽くした。 彼女は女の子で、魔法使いだ、と思った。 だって彼女に魔法をかけられてしまった。 この魔法は、自分じゃ解けない、と思う。 女の子の魔法は、女の子にしか解けない。 |
「少女迷宮」 2005/07/30 急に大人びて見えてドキっと……というリクをいただいて。 うんうんうんうん一生懸命考えました。猫湖ちゃんだけに不思議な文章にしたかったので頑張りました。 男子側は誰でも可、とのことでしたので、誰でもいいように書いてみました。お好きな男の子でどうぞv 女の子の魔法は、女の子にしか解けない。タテタカコの「女の子」より。猫湖ちゃんにぴったりです。 |