※二年生設定です。 |
根っからのスポーツマンでおまけにアホというやつはスランプに弱い。
毎日それしかできません、みたいなアホなスポーツマン。 文科系の人間はできることが少なくてもまあ〆切に間に合えばいいや、という感覚があって、スランプになってもそれなりにまったり過ごせるタイプが多いのだけど、体育会系は毎日練習! 特訓! 鍛錬! みたいなところがあるから、スランプになっても休まない。 合理的な考え方ができるタイプはまあそれでも大丈夫なのだが、犬飼はダメだ。 あれだけ辛酸はなめました〜、過去にいろいろありました〜、挫折もありました〜、みたいなこと言ってるくせに、弱い。 スランプになると、それはもう真剣に真剣に何が悪いんだ自分が悪いんだと悩んだり足掻いたり泥沼になる。 辰羅川がそんなときもありますよなんて言ってもきかない。 子津が犬飼君はじゅうぶん凄いっすよなんて言ってもきかない。 そりゃうざいくらいに、必死になる。 思うように投げられない自分を絶対に許さない。 投げるのが全てだなんて顔をして、でも自分は全くだめだなんてくらーく自嘲の笑みなんか浮かべちゃったりして。 根っからのスポーツマンで野球しかできなくておまけにアホでそのうえひとりよがりで自分をいじめるのが無意識に趣味みたいなもんになっている犬飼は、それはスランプに弱かった。見てらんねえと思わせるくらい。 そういう苛々が募って、犬飼とのいつもの言い合いに、キリをつけられなかった。長く、しつこく、罵倒を続けてしまう。 犬飼が律儀にキレるのにそう時間はかからなくて、殴り合いに発展したとき、そうだ軽く怪我でもさせちまえと思った。 ちょっと休んで他のことしてみるほうが、犬飼にはいい気がしたんだ。 そんな猿野と、元々スランプで気が立っていた犬飼が本気の喧嘩をおっぱじめて、大騒ぎになった。 猿野は170センチ後半、犬飼は185センチ超。 そんだけタッパのある、しかもバリバリ体育会系二人が繰り広げる殴り合いは見ものでもあったけど、隣のグラウンドで指導をしていたサッカー部の顧問が顔色を変えて飛んできた。 間に入るほどの度胸はないらしく、やめなさい、と怒鳴る。 普段は男の殴り合いなんてやらしとけと関わらない虎鉄が、それに顔色を変えてまた飛んできた。 先公に首突っ込まれたら、いろいろ面倒くさい。 サッカー部の顧問が、やめないと部活停止にするぞ、と叫んだのとほぼ同時に、虎鉄が猿野を犬飼から引き剥がして、猪里が猿野と犬飼の間に割り込んだ。 「お前Ra、何考えてる!」 この身長差で本気で暴れられたら抑えきれないので、先手を打って猿野の間接をキメてやる。身を捩って逃れようとした猿野がそれに舌打ちして、咆えた。 「部活停止上等! いっくらでも謹慎させやがれってんだ!」 「猿野!」 きれいに息の合った本気の虎鉄と猪里に殴り飛ばされて、猿野ははっとした色を目に浮かべた後、大人しくなった。 「こいつらのことはオレが監督に報告しときまSu。お騒がせしてすんませんでしTa」 おそろしくドスの利いた声で虎鉄がサッカー部顧問を追い返し、無言の猪里が野次馬を散らした。 尻餅をついて二人を見上げて、猿野は猛烈に後悔した。部活が停止になってもいいなんて、なんて、酷いことを言ったんだろう、なんて、失礼なことを、野球を軽んじたことを言ったんだろうと。 犬飼は所在なげに突っ立っていて、でもまだ猿野への怒りで震えているらしい。 「ったくお前RaはYo……いいかげんにしろ」 「ごめん」 「…すんません」 虎鉄はちらっと犬飼を見てから、猿野を睨める。 「ごめんなさい、Da」 「ごめんなさい」 素直に言い直す猿野におやという表情をしてから、猪里が呟いた。 「やれやれ、今回は何っちゃね」 「こいつが」 「オレが」 いつもどおりのタイミングで同時に返事をした犬飼と猿野の、声が今回はハモらなくて本当に主将と副主将は驚いた。 「今回はオレが悪いっす。ごめんこてっちゃん。反省する」 両手を合わせて猿野は頭を下げた。 殴られたところは普段から打たれなれてる猿野にはたいして痛くはなかったが、本気で怒っている目が痛かった。 ゴメン。 だって、部活停止になったら、野球できないから、あいつは休めるかと思ったんだ。 一瞬とはいえ、虎鉄の、みんなの野球より犬飼をとった。ゴメン。 あ〜もう。 という内容のことを、もどかしく説明してから、猿野はもう一度頭を下げた。 「A〜、バカKa?」 「すーんーまーせーん」 呆れられて、猿野は口を尖らす。ほんとにバカだという自覚はある。 「…………先輩。足どけて下さい」 「猿野、殴らないならよかけど」 ぐるりと喉をならす犬飼は、猪里に足を踏まれていて身動きがとれない。 とれるもんなら全力で猿野を殴りたいと顔に書いてある。 いろいろと顔に書いてあった。 なめんな。とか バカにすんな。とか むかつく。とか むかつく。とか むかつく。とか。 「アー…」 虎鉄が空を仰いで、もうまいったというふうなため息をもらす。 「お前ら、二人ともしばらく謹慎Na。殴り合うなら干支橋の下まで行ってからやれ。あそこ道路から見えねえShi。あとケンカふっかけた罰として猿野は調子戻るまで犬飼の面倒見Ro」 「うい……」 「げっ……!」 犬飼の顔色が赤黒から青黒に変化した。 |
「Dog Fight」 2005/06/10 Dog Fight。私もこれは犬飼でやらないとな〜と思ってたので犬+猿でリクがいただけて嬉しかったです。 戦闘機の空中戦とかそういう意味しかないと思ってたら、ちゃんと犬のケンカっていう意味もありましたよ笑。 ケンカメインじゃなくってごめんなさい。 |