行動力のあるやつというのは、つまりは素直な人種なのだろう。
ふと会いたくなった、ら、本当に会いに来る。 今日はふとわかりやすく愛されたくなって会いに来たんだと意味不明のことをのたまった。 ちょっと感心しながら、当たり前のようにホテルの部屋にずかずかと入り込んでベッドに片胡坐かいている猿野に突っ込む。 「……って札幌だぞここ」 「いいじゃねえかよ、埼玉から四時間だ。オレ様の睡眠時間の半分しかねえ」 「…まあ、いいけどよ」 時間はあっても金はないこの大学生はがめつく交通費をせびっていくから良くはないのだが、まあ、いい、と犬飼は思う。 この素直さが買えるなら安いものだ。 「そんで?」 「したい」 「何を」 「セックス、か、三球勝負」 「そのふたつを取り合わせんな、エロ猿」 「だって、」 その先は言わずに、首筋にざらざらと茶色い頭をこすりつけてくる。 甘やかしたくなってしまって、犬飼はため息をつく。できないから。 「とりあえず、明日先発なのでどっちもしません」 「えー!!」 「……なんだよ」 「ええーー!!」 「やかましい」 「…………うう」 そりゃあ仕方ない、と聞き分けてしまうけれど、じゃあいったい何のためにここまで来たんだ? とがっくりする。 四時間かけて、札幌だぞ? 顔見ただけで黙って帰るには、ちょっと遠すぎる。 「つか、オレのローテーション」 「……うっかり思い出さなかった」 「バカ猿」 そりゃほんもののバカだ。 「ちえ……しょうがねえ、帰る」 「は?」 「明日もフツーにガッコーはあるんだよ! くっそ」 「はあ、学校ですか……」 「ガッコウですっ! 毎日ヒマなわけじゃねえっ!」 こんなたかが10分間のおしゃべりのために電車乗り継いで飛行機乗って電車乗って地下鉄使って来たのか、そして逆になぞって帰るのか、それは正真正銘バカだ。というか浪費だ。 テメエのそのバカな行動の何割かはオレの財布が支えてるんだ。アホ。ボケ。 「明日、大学サボれよ」 「む?」 「バックネット裏の席、とってやる」 猿野の表情が和いで、甘くにやりと微笑う。 やばいなあ。明日、勝てそうな気が、してきた。5割り増しくらいで。 いかれた思考に、犬飼はくらくらする。 「…………内野三塁側一階席がいい」 「はいはい」 せっかくはるばるここまで来た恋人を、わかりやすく愛してやろう、と犬飼は思う。 三塁席だとわざわざ振り向かないと見えねえ、から、何度だって振り向いてやろう。 貴方のために投げます、なんて、どっかの野球マンガみたいな愛し方をしてやろう。 |
「目の前で愛して」 2005/05/29 Junkからリサイクル。 プロの犬飼と、大学生猿野。プロになったら、犬飼の野球にはそんな余裕もできたっていいと思う。 かわいい猿を書いてみようとして玉砕。 |