お兄ちゃんのオムライスが食べたい、とふいに思った。
 男の人の作る料理と女の人の作る料理は、根本的に味が違う。
 主に炒め物に関してそうなのだけど、男の人のつくるフライパン料理というのは本当においしい。
 といっても私は普通の(つまり料理人ではない)男の人の料理といったら、お兄ちゃんの料理しか食べたことがないのでこんな風に一般論として述べてもいいものかはわからないけれど。

 お兄ちゃんの料理は、私とお兄ちゃんが家に二人きりのとき、その条件が満たされていてもほんのごくたまにしか食べられない。
 他に料理ができる人がいればお兄ちゃんが作る必要はないし、他に食べる人がいれば、はっきり言って私が作るほうが満足してもらえる。
 でも二人きりの、たとえばお昼ご飯。
 気張らずにさっと食べてしまいたい時に、お兄ちゃんはにこにこしながらささっと台所に立ってくれる。
 それは私だけの特別で、とても気分がいい。
 いつもはぼんやりしているお兄ちゃんも、火を扱うときはしっかりした顔をする。
 野球をしているときの食い入るような感じではなく、とても大らかで整った仕草。
 軽々とフライパンを扱うお兄ちゃんは、とても男らしい。
 お兄ちゃんが色のついたご飯を空中に綺麗に躍らせると、それだけで慣れた台所がいつもより広く感じる。
 私だって、片手でフライパンの中身をひっくり返すくらいできるのだけれど、やっぱりあんな風に大胆に食材が踊ってくれることはない。


 今度お兄ちゃんが帰ってきたら、両親を追い出して、お兄ちゃんにおねだりをしよう。
 リクエストは、オムライスか野菜炒め。
 大らかで整った、男の人の味。










「お兄ちゃんのオムライス」  200/0514/
Junkよりリサイクル。
かのやはお父さんのオムライスが大好きなんですよ。