みんなが、走っている。
 ダイヤモンドを、全速力で走る。

 いや、速さはともかく、みんなは、走りたがっている。今回は二人。
 ダイヤモンドを、回りたがっている。

 だからオレは打たなくちゃいけない。ホームランでもいいし、ヒットでもいいし、とにかく打たなくちゃいけない。

 みんなの足が走れるように。




 みんなは、走らせたがらない。
 相手のみんなは、一歩もランナーを進ませたくない。
 バッターランナーのオレのことも、走らせたくない。

 だからオレは打たせてもらえない。
 あの手この手で打ち取られてしまう。




 みんなが、走りたがっている。
 みんなは、止めたがっている。



 その気持ちは交互に訪れて、オレは時々その気持ちの激しさに潰されそうになる。
 迷いそうになる。打たなきゃいけない。打っていいんだろうか。

 ていうか打てるんだろうか。



 オレはバカだけど、多分人並みに悩んだり怯んだりはするんだと思う。
 覚悟決めてバッターボックスに入ったって、ピッチャーと向き合ったと思ったら足が竦む時だってある。



 でもどうしてかな、オレが悩んで怯んで竦んでいる時に限って、ものすごい音量でみんなの声が、聞こえるんだ。

 十二支のみんなの声。
 スタンドから、賊軍のみんなの声。ああ、雑草魂だよな。
 応援団長もみじさん、かっこいいスよその応援。きっとその隣で凪さんは祈ってくれてるんだよな。
 ベンチから、聴き慣れたそれぞれの声。……子津、サンキュ。
 スバガキ、わかってるって、オレならやれるよ。司馬、無理してオーバーアクションしなくても、お前の気持ちは届いてんぜ。
 鹿目先輩、あんたの背中を支えんのが、スラッガーの役目だよな。三象先輩も。
 メガネ……じゃなかった、一宮先輩、なんつーかありがとうゴザイマス。
 キザトラ先輩、大根先輩、シシカバ先輩、聞こえてますよ。力湧いてきますよ。
 たっつん、ロッカーに居るけど多分信じてくれてんだよな。
 ああでもヒゲはあんま見つめてこないで、イヤン。

 牛尾主将、もう何にも言わないでも、わかります。ここが、オレの役目です。
 蛇神先輩、あなたに応えらんなかったら、オレはここで終わる男です。でも終わりたくねーです。マジ。


 ああ? オエ、うわ……ドサマギでオレのこと応援しやがったな、クソ犬。
 畜生、何かお前にまで素直に応援されるのは気持ちワリーけど、ああ打ってやる。




 当たれ、ボールに、バット。
 打て、ぶちかませ、オレ。




 まっしろになって、白球がオレに向かってくる。

 一瞬の間に、オレはオレの中で叫んだ。








 か っ と ば す !!













 あん時、「当たれ〜〜!!!!」なんてヘタれたことを叫んだらしいことは後から聞いたが、はっきり言ってオレは憶えてない。










「164発目」  2004/12/21
だってモエちゃったんだもん……(燃え尽き)
ありえないくらい猿野がかっこよかったです。ギャグなしでももう文句言わない! ミスフル愛してる!