二人でいれば、基本的には並んで歩く。
 それはま、当たり前かもしれない。
 一緒にいるんだから、並んでなかったら不自然かもしれない。

 何度も並んで歩くうちに、犬飼の歩く速さは少しだけゆっくりになった。
 一定のスピードですたすた歩く犬飼と違って、オレは走ってみたり何かに気を取られて立ち止まったり、いろいろで、それが総合的には普段の犬飼のスピードよりも少し遅いらしい。
 オレが先に走っていっても、何かに気をとられて立ち止まっても、犬飼はすたすたと、一定のスピードで歩いている。
 でも、結局は並んで歩いている時間が多い。
 オレは別に並ぼうとか合わせようとか考えたことはないから、多分犬飼の(意図的にか本能でかは知らないが)計算された歩調が二人の距離のバランスを絶妙にとっているんだろう。

 と、思う。

 犬飼がオレの散漫な動きに構わずすたすた歩いてくれるのは有り難い。

 時々オレは、急に立ち止まってみる。
 犬飼はすたすた歩いていく。
 オレはその背中を見るのがなんとなく好きだ。
 犬飼に限らず、どうもオレは背中というパーツが好きで、よく人の背中を観察しちまうんだが、犬飼の背中は特別にいい。
 背が高いから広いし、野球やってる上ピッチャーだから筋肉のつき方が独特でいい。
 ヘタレのくせに歩くときの姿勢はよくて、きっちりとのびやかな背中で犬飼は歩く。
 それがすごく、いい。

 こうやって並んで歩くようになってしばらく経って、なんとか好きになったところもあれば理解できるようになったところもあるし、まだまだ嫌いなところも山ほどある。
 けどこの背中は最初から好きだった。
 いや好きという自覚はなかったが、犬飼が自分の前を歩くときにはいつもなんとなく目が行った。
 今ではこの背中が特別に好きだ。

 オレが居ようが居なかろうが、犬飼はこうしてのびやかな背中で歩いて行くんだろう。

 そういうところが、好きだ。
 こうやってただ一緒に歩いているだけなら、置いて行かれても悔しくないし、追いついても楽しいし、追いかけるのは気持ちがいい。



 犬飼はそういう背中をしている。










「歩く背中」  2004/11/20
すみません背中フェチなのは私です。好きな背中が私にもありました。
すたすた行っちゃう背中にむかつきだすのは、いつになるのかな。楽しみです。(笑)