オレは今、犬と散歩中だ。


「おーい犬ー」

 呼ぶとあいつは拗ねる。
 つんと顔をまっすぐ前に向けて歩調を速める。

「犬ー」

 この呼び方が気に食わないのは知っている。
 だからちょっと呼び方を変えてやる。

「犬飼くーん」

 するとあいつは振り返って、ちょっと笑う。
 かわいいんだぜ、あいつの笑い顔。

「犬・飼・キュンv」

 明美化してかわいく呼んでやるとあいつは喜ぶ。
 とことこオレの方に歩いてきて、懐っこい顔をする。

 お、ちょうどベンチがある。

「犬飼キュン、休憩しましょv」

 公園のベンチにあいつを誘って、しなりとオレは腰を降ろす。
 あいつはすぐさまオレの膝の上に乗りあがってきて、熱烈なディープキッスをかましてくる。
 おいおい公衆の面前で何てことすんだよv

「あひゃっあははっふっふあっ、あっ、犬飼キュンてばも〜」

 こいつは犬だから人の顔舐めるのが大好きだ。
 そりゃもう犬だから。







「とりあえずいいかげんにしやがれこのクソ猿!!」




 それまでは余程我慢していたんだろうな、でも堪忍袋の緒が切れたらしい。
 コゲた男の怒声と脳天チョップがオレを襲った。
 その怒声といでっと声を上げて肩を揺らしたオレに驚いた犬飼トリアエズ君がオレの膝から飛び退る。
 リードはオレの手に絡めたままだったのでトリアエズに引っ張られてオレはベンチから落ちそうになった。

「ちょっと何すんだよコゲ犬! オレとトリアエズのラブラブタイムを!」
「別にお前にトリアエズが懐くのはトリアエズの自由だから仕方ねえ、だけどその呼び方やめろ!」

 怒鳴る犬飼の顔が黒いくせに真っ赤だ。おもしれー。

「何だよトリアエズのフルネームは『犬飼トリアエズ』だろ!? 犬飼くんと呼んで何が悪い!」
「うるせえとりあえずトリアエズはトリアエズだ!!」

 あー。赤い赤い。赤黒い。耳まで赤黒いぞコゲ犬。


 本当に面白い。


「犬飼キュンてば赤くなっちゃってどうしたの? トリアエズと同じこと明美にしたい?」


 …………。

 あっ、おいちょっと待て逃げ出したぞあいつ。
 正しい回れ右で180度回って逃げ出したぞ。もう公園から出てった。すっげえ超スピード。

 あっちは犬飼の帰り道か?

 公園のベンチには取り残されたオレとトリアエズ。
 最初は三人で散歩してたのにな。まあいいや、な、トリアエズ。

 トリアエズは何が起こったのかわかっていない顔だ。

 どうしような。
 とりあえずお前んち帰ろうかトリアエズ。送ってってやるよ。
 オレ、犬飼んち知らねーけど、お前賢いから案内できるよな。任すわ。

 さあ、行こうか。



 …………それにしても、犬飼のヤツ、何だってあんなになって逃げる必要があったんだろう?


 …………………それについては保留にしておこう。その方がいい気がするかんな。









「あなたのお家はどこですか」  2004/10/03
トリアエズ×猿も好きです私(告白)。なんて、ありがちネタで失礼しました。何か軽いのを書きたいなあと思ったので。
母がネット譲ってくれないもんで居間のテーブルで15分くらいで書きました(爆)。
ペットが動物病院に行くとね、飼い主の名字+名前で呼ばれるんですよ。「犬飼トリアエズくーん」て。
きっと看護婦さん(笑)が甘い声で呼んでくれるので犬飼くんと呼ばれるのはトリアエズは気に入ってるんじゃないかな、なんて思って書きました。
それにしても、うちの犬飼も結局はヘタレになってしまいましたね……