指を手を




 手を、繋ぎたい、と思う。
 てのひらとてのひらを合わせて、指を絡めて、自分のものよりは白い手の甲を、床に縫いとめてしまいたい。
 そう思う先の手は、枕の下に突っ込まれていて、おそらくその裏で、ぎゅっとかたく、枕を握り締めている。

 肩を掴まれたのを咄嗟に振り払ったときから、猿野は手を伸ばしてこなくなった。
 代わりに枕の下に手を突っ込んで、あの馬鹿力がどうして引き裂いてしまわずにいられるのだろうと思うくらい、枕カバーをくしゃくしゃにする。
 最初に肩でなく背中に手を伸ばしてくれたらと思うのは犬飼の幼稚な言い訳だ。
 肩を護るのは染み付いてしまったピッチャーの性で、それをすでに理解してしまっている猿野は、一度振り払われただけで犬飼に触れなくなった。
 自分はどこを触られても拒まない、代わりに、どこにも触れてこない。

 触れ合いたい、と犬飼は思う。
 手を繋ぎたい。
 二人でひとつを祈るように指を絡ませて、祈りのカタチごと床に縫いとめて、不安定に、泳がされるように、揺れる硬い身体が揺れるのを見たい。

 けれども、枕に手を突っ込んでかたく握られた猿野の手を探しあてて、引きずり出して、指を開いて、それを握りこむような、そんなことはできない。難しくて、できない。
 あの手が枕の下に隠されているのでなくて自分の背中に回されているのなら、肩から脇、上腕、肘と自然に辿って、優しく愛撫して絡めおろすこともできるだろうに。


「バカ犬、なん、どうし、た」

 少し鼻にかかった、掠れ声に甘やかされて、もうこれ以上甘えられないと、犬飼は悲しくなる。



 手を、繋ぎたい。



2005/05/18   うちのくっついた後の犬猿の原点みたいな感じです。