「穴」
この穴を
埋めるのは何
この穴を
塞ぐのは誰
狭い暗い重い穴
陵辱を
待ちわびる口のように
穴は
開いたまま
ここにある
最初に来た人は
何をするだろう
ここにあるよここにあるよ
未だ誰のものでもない穴
満たしていいよ
叫んでいいよ
隠れてもいいよ
棄てていいよ
暴れてもいいよ
探しても、いいよ
探っても、いいよ
何をしても
何をしても
空しく、は、なくなるだろうから
穴は待つ
凌辱を
希む口のように
開いたまま
叫んでいいよ
ここにあるよ。わたしの、ここに。
指先から
骨の空洞を
伝い
埋めつくし
脊髄に到る
かなしみ
裡側の希望
重たい
軋む
鉄の羽根
熱が
満ちればいい
狂い
止まれず
裂け
砕けても
それでいい
骨の空洞を
熱で満たせ
指先から脊髄まで
巣食うかなしみ
裡側の希望
焼き焦がし
灰に変え
それが
わたしを
狂い
踊らせ
骨を砕いたなら
熱いまま
空へ遣れるだろう
裡側の希望
骨がはじけるほど、膨れ上がればいい。
「寝たきりダンサー 」
踊りたいと
口では言いながら
臥したまま
立ち上がりもしない私を
雨の中に
叩き出してください
踊らないと
凍えてしまうように
寝たきりダンサー
生きないと、死んでしまうように。
「覚夏」
燕は
いつの間に巣立ったろう
君はいつ
愛を覚え私を巣立つだろう
まっすぐお行き
振り返らず
厳しくも
君の在るべき空へ
まっすぐ
風が鳴くほど
ただ疾く
それは
在るべき季節
うつくしき時の廻り
訪れる
静かな夏だ
風が鳴くほど
春が過ぎたことを知るとき、
いつか来るその日を想う。
美しい時になるだろう。
「眼ヲ開ケロ」
眼ヲ開ケロ
眼ヲ開ケロ
何も浮かばないように
思い出さないように
眼を開けて
今を見ろ
今はそれでいい
眼ヲ開ケロ
挑め、たたかえ。
「フォーゲット・ミー」
忘れてくれないかなあ
わたしのこと
もう
あんなふうには
頑張れないから
忘れてくれないかなあ
とうとう
とっくに
うそじゃなくて
隠すんじゃなくて
あなたさえ欺くんじゃなくて
ちゃんと
わたしは
生きていたいから
だからもう
あんなふうに
騙そうと頑張ったりできないから
忘れてくれないかな
わたしのこと
はじめから
フォーゲット・ミー
あなたの知っているわたしでいられないので。