顔は知らぬが
息遣いを知る人が
逝った


祈るでもなく
遠くから見つめた


嘆きの声を拾い歩き
ようやくさみしがる私を
彼女の顔を知る人々は
許してくれるだろうか



とっくに彼女が灰になって
二度目の蓋をを閉められて
それさえも済んだことになってから


出会いたかったと気付いた私を

誰か殴ってくれ。



二度目の蓋
通っていたサイトの管理人さんが亡くなった時に書いた。
一度目=棺桶、二度目=骨壺。












「ありったけ」

ありったけのかなしみを
背負う覚悟もないくせに
あなた一人くらいと
見くびり
奏でてと乞うた

涙を流させ
ぬぐいきれず
重いと泣いた


ばかな私

だけど
潰れながら手放せもしないから

どうか許してください


愛しているから



ありったけのかなしみを
君一人くらい背負ってみせるよ。
そう言ったのに、私は潰れてしまった。
ごめんね。でも、手を離さないよ。












「人の子」

血を冷やし地を濡らせ
勃ち上がるものはやさしく横たえ
膝を埋め頭を持ち上げ
祈りなんぞ解いてしまえ

生き残るのは音だけで良くはないか
この種に何の意味がある
造ることを憶えけれど終われない
うずたかき残骸
淋しいくせに閉じ込めて
私の何が海に還るの?

奪うことを憶えけれど返せない
呪えども無力
燃やせても消せない
私の何が空へ往ける?



うずたかき残骸/呪えども
なんか降ってきたので書いた












「とぉいとぉいとぉく」

地図は風にさらわれてどこかに行ってしまった
太陽が一番高く昇る方を指して
ただ歩くことに意味があると信じよう
顔を上げ
けれど眩しすぎる光には掌をかざして
瞼が溶けないように
時には昼でも眠ろう
腫れた足には
泉を探そう
淋しいときには
太陽に背を向けて祈ろう
知らない星には
あなたの名前をつけよう



知らない星
逝こう、ただ歩くために














ここで死にたいと
思ったのは
あなたの腕の中

明日を
信じたいと思ったのも



上手に眠れない冬の夜

肩が震える
強張る背中に
孤独が圧しかかる


思い出さなければ
息もできないよ

近くにない腕は
いつまで私を支えるだろう


ここで死にたいと
痺れるように思わせた腕が
もうひとつ与えた
明日への想いだけ
今ここに持ち越して

私は震えています



朧な腕
ここになくても、私を支える朧な腕。












「ななつのころ」

乗り越えて踏み出して
背をそらせるほどに今を誇り
笑い
明日を、望み


なのにいつも
ふと
ななつのころ
に戻っていく


黒髪切り揃えて触れもせず
昼休みの教室に声はなく薄暗い
校庭は白線の外で石英の光ばかり見て
一時間の道のりは日陰もなく他には誰も歩かない


鍵は持たされずお留守番
静かな家

持て余した時間と孤独は知識ばかりを育てて

私に生きる歓びよりも先に
平穏を甘受する罪悪感を教えた
次に知識を持つ者が負うべき使命があることを教えた


応えるために生きるべきだと信じた


何の、誰の為に?



生まれたことへの贖罪、の他には
ひとつも知らないまま。



歓びの探し方を
どうして誰も教えてくれなかったんだろう


こどもよみがえる日には
こう思ってみる。



石英の光/歓びの探し方
「わたくしごときが平和を甘受する罪悪感」。
そういうものに悩む子どもでした。