「居ル」

やっぱりねえ
どんなに心がぐにゃぐにゃになったって
私の体は寒くても熱くてもぐにゃぐにゃ溶けたりはしなくって

ここに居るんだよって
ちいさくささやくんだ

私ね ここにいるらしいの
やっぱりね 生きているらしいの


何だかね
わけもなく嬉しいよ



生きているらしい
どんぞこのどんぞこで、ただ生きている、そのことが、
実は途方もなく幸運なことなのだと、なんとなく思った日。












「一人で歩く覚悟を。」

繋いだ小指をふいと外して
背中を見せて走っていけばいい

そう想いながら私はいつかそうなることを恐れていたけれど


私がふいと指を離して走っていっても
それはあなたには幸せなんだと
あなたはまっすぐ私に言いました


私は背中を見せられるかしら
まっすぐ生きて走って振り返って手を振って

あなたがそれでいい
という私の幸せに向かっていけるかしら


ねえ?




ああ今はもう少し
この指を離さないで

あなたの言葉と私の決意とを絡めて
心を真っ直ぐにして
深呼吸をするまで

少しだけ待っていて



一人で歩く覚悟
もう少し、傍にいて。












「基地」

私たちは
どうしようもない自由でお互いを繋いでいるのかもしれない。


走り出すときは無言でいい
帰ってきたらただいまと言ってもいい

もちろん黙って隣に戻ってくるだけでもいい


とりあえず
私はどうしようもなく自由なベースキャンプだ。
あなたはどうしようもなく優しく自由な
何も言わないベースキャンプだ。



どうしようもない自由
人の心はいつだって人に帰るものです。
私たちはお互いに帰る場所で在って、そして。
















少しだけ背徳感
自重。
題は「二月の雨を聴きながら」。












「ささいな特別」

ささいな約束を
ふたつとない宝物のように守るから

ささいな不安が
大きくうねって日常を乱すから

ささいな行違いが
止まらない海のような涙を呼ぶから

ささいなことを
どうしようもなく境界なく幸せに想うから


だからあなたは特別なんです



ささいな約束
それだけのこと。












「真夜中の電波」


私みたいに眠れなくて苦しい思いをしているひとは
どれくらいいるでしょうか

その中に
あんまり不安で泣き声を殺しているひとは
どれくらいいるでしょうか


できることなら伝えたい

私も今眠れないで秒針の音に追い立てられています

どうか泣きたいだけ泣いてください
あなたは弱いから泣くのではなく
にんげんだから泣いているのですから

少なくとも私はそれを知っているから
どこからとも知れず空を渡るおし殺した泣き声を
少しばかりでも受け止めましょう


そっと抱き締めさせてください



にんげんだから
などと考えて自分を慰めるわけで












「西の涯の響き」

遠い異国のお祭りで
なにくわぬ顔で一緒に踊ってみたい

笛の音太鼓大人の笑い声
ワインの香りオレンジの匂い子どもの歓声

輪になって踊るの
目が回るくらい
足がもつれて立てないくらい

遠い異国のお祭りで
何くわぬ顔で でも異邦人として
一緒に輪になって踊ってみたい

故郷の笛の音を忘れて
故郷の太鼓の響きを忘れて
踊ってみたい

足を切り落とさないと止まらないってくらい


何もかも忘れて踊ってみたい



異国のお祭り
私のまま、私を忘れてみたい。