ごめんなさい
あなたがあれだけ想ってくれたのに
あなたはこんなに想ってくれているのに
わたしは淋しくて独りだと感じて
お酒にうかされて泣いています
もっと想ってよ足りないよ
からだが震えて
あのおだやかな幸せを思い出せない



あの穏やかな
愛していると確かな言葉をもらったのに、
私はそれをちゃんと憶えているのに、
言ってくれたあの人の体温や匂いまでも憶えているのに。
淋しくて淋しくて眠れない。












「立ち止まる腕」

夜が好き。


夜は光がひとつじゃないので
あたしのぼろぼろの体が透けずにすむ

けれども白いひかりにぼやけてしまうこともないので
弱くなった腕の細さだけ妙に引き立って

怖くて怖くて目が離れない。


 あなたをまもる。
 あなたとたたかう。
 わたしとたたかう。
 いっしょにはしっていく。


そう言って笑ったわたしが差し出した
あのころの太くて強い腕はどうしてしまったのだろう

わたしがあなたを抱けばあなたは動けなかった
あなたはわたしの腕に縋ることができたいつでもいくらでも


記憶だけが骨に残り
肌は漂白され肉は時間に喰われた。


夜に映えるこの白い細い腕は
今は縋ることばかり考えて
やわらかい白肌にあかい蚯蚓腫れ

こんな腕でだきしめられたらきっと寒気がするだろう。


 あなたをまもる。
 あなたとたたかう。
 わたしとたたかう。
 いっしょにはしっていく。


あの頃から歌いつづけた歌がわたしを鞭打った。
昔穏やかに愛を込めた歌は今はわたしという戦場に響き渡る恐ろしいマーチ。


動けないよ立てないよ声が出ないよ
瞼の裏に叫びながら


強く在りたいとわたしは願った。



わたしという戦場
夜の街で人工の白い光に腕をかざしながら。












「清らかな無知」

正しさは痛みを知らないわ
正しさは怯えを知らないわ
正しさは迷いを知らないわ
正しさは苦しみを知らないわ
正しさは何も何も何も知らないわ


救いは正しき人にそそがれる と貴女は云う。



正しき人に救いなどいるものか。
正しき人が何の不幸からすくわれようというの。


なんて欲張りな、正しき人よ。



清らかな言葉で清らかな精神で
不幸な人を責め突き落としその心を砕く


責められて突き落とされて砕かれて
私はもう人ではない。

ただただ不幸な不幸な、正しくないもの。



なんて残酷な、正しき人よ。



清らかな無知
正論なんて、ただ人を傷つけるだけの時もある。












「やさしい人の裏切り」

あのこは
わたしを傷つけるつもりなんて
ほんの少しもなかったの

でもね
礎としていたひとに
わたしは裏切られたと思ってしまったのよ

今日からどうすればいいの

わたしを支えてくれると言った人が
わたしを突き崩してしまった



やさしい人の裏切り
ささいな約束が、どれだけ時間に怯える私を支えていたことか。
あまりにもささいで、その人は憶えてもいなかったのでしょう。
















守るどころか
ネタがアレなので自重。





髪や眼や肌
ネタがアレなので自重。












「夜明けの鼓動」

私が生きている時間に
あのひとも生きていればいいのに


ひとときも眠れなくて
どうしようもなくむかえた朝は
覚束ない躯を取り残して美しいと思うくらい
やさしい空をつれてきた


思わず私の狂った泣き声のこもる部屋を抜け出して
笑いながら歩いた大川を
都会の濁った匂いのする涼やかな風が渡っていった


眠れなかった朝
ひさしぶりに美しいものを見れたのよ

空が美しかった


そう 今すぐにも
あなたに伝えたくなった

未だ 健やかな眠りのなかに在るあなたに



夜明けの鼓動
徹夜明けの隅田川。
あなたはまだ、夢の中。